就活は「運」と「縁」と「日頃の努力」
就活に関する情報は山ほどあります。様々なハウツー本と同様、振り回されずに、自分が納得したもの、できそうなものだけ参考にするのが極意です。すでに自分がやっていることが出ていたら自信をもって臨むことができます。この文章もそのつもりで気軽に読んでください。経験を踏まえて就活の心得をまとめてみました(2月に公開した「【大学生活】サークル、アルバイトの選び方」に加筆しました)。
基準のない選考
テストの点数で決まる大学受験と違い、入社試験ははっきりした基準がありません。人間性が問われます。採用面接官にとって「一緒に仕事をしたいと思う人」が一つの基準です。でも学生からすれば、これではどうしたらいいか分かりませんよね。落ち続けたら自分が否定された気持ちになるかもしれませんが、そんな必要はありません。
入社試験はまず「運」です。「昨年はスキル重視でとったので、今年はユニークな人を採ろう」「女性の内定者が増えてきたので、男性をもう少し増やそう」「甲乙つけがたいけど、この職種の採用枠は1人なので、今回は地方出身者にしてみるか」・・・こんな感じで内定が決まることがあります。落ちた人の責任ではありません!
波長が合えば
次は「縁」です。役員に知り合いがいる、というようなコネではありません。採用する側が「何となく、うちの会社に合っているな」と思うかどうかです。波長が合うとも言えます。採用面接官が「アルバイトで似たような仕事をした経験があるようだな」「同じ大学出身の社員がいて優秀だから大丈夫だろう」と感じてくれたり、面接でたまたま共通の趣味の話で盛り上がったり、ということで決まることもあります。
「運」の一種とも言えます。
受ける方も、その会社との縁を探してアピールすることも効果的です。「同じ業界に先輩がいて面白いと言っていたので気になって調べてみました」「たまたま読んだ本で、この業界のことが出ていて興味を持ちました」と言うことができれば、会社との距離は近づきます。同じことをアピールしても、関心を持つ会社と持たない会社があります。合う会社に行きつけば採用につながります。落ちても縁がなかった、というだけです。
自分を高める
「運」と「縁」がすべてで「努力」は不要か、と言えば、さすがにそうではありません。よほど恵まれた人以外は、やはり努力は必要です。ただ、出題範囲が決まっていて参考書や問題集に取り組めばいい受験勉強と違って、日常生活で自分を高める努力が重要だということです。
大学の授業の成績は就活にはほとんど関係ありませんが、授業に取り組む姿勢は大切です。すべての授業に一生懸命でなくてもいいですが、何か一つくらいは真剣に取り組みたいものです。「フィールドワークで過疎地に行ってお年寄りにヒアリングをして解決策をまとめました」「マーケティングの授業で、いろんな企業の広告・宣伝戦略を調べました」「国際関係に関心があるので、他の学部の授業も受けたり、シンポジウムに参加したりしました」など、自分の関心や積極姿勢をアピールできれば有効です。
授業以外でも
アルバイトやサークルの経験も役立ちます。エントリーシート(ES)でまず目につくのはアルバイトやサークルの項目です。採用面接官にとっては初対面の学生と話す糸口になります。塾講師やテニス同好会などの定番より、マイナーでユニークなものほど話題になります。「探偵事務所でトラブルを解決した」「出版社のバイトで漫画家の原稿を受け取りにいった」「和服同好会で京都の街を和服で歩いた」という学生もいました。
面接官がアルバイトやサークルに関心を持つのは、学生の社会性を探る理由もあります。就活ではコミュニケーション能力が重視されるといわれますが、確かに会社に入れば、社内・社外の人たちときちんと会話ができないと困ります。この能力は研修などで学ぶものではなく、日常生活で身に着くもので、社会人や先輩、いろんな人と一緒に過ごすアルバイトやサークルは絶好の機会です。
そのうえで、そこでどんな経験をしたのか、うまくアピールして面接官と波長が合えば最高です。例えば、音楽サークルで努力してコンクールで優勝した、といっても、通常の会社では特段のポイントにはなりません。それよりも「ライブをやるために、会場を探したり、SNSで宣伝したり、パンフレットに広告を出してもらうように商店街を回った」と言えれば、行動力を評価する会社は多いでしょう。面接をしていると「サークルのメンバーがばらばらになりそうになったので、全員と会話をしてまとめ上げて成果を出した」という説明をよく聞きます。いい話なのですが、就活本のマニュアルにあるかのように多くの学生が話すと、ちょっと不信感を持ってしまいます。
戦力になるか
就活は会社側に主導権があるように見えますが、会社側も「この学生で大丈夫だろうか」と不安を抱えながら臨んでいます。短い時間で人間性を見抜くことは難しく、さらに、ちゃんと仕事ができるか推測するのも難しいからです。「仕事は会社に入ってから覚えるもので、採用は人間性重視」という面はありますが、人間性だけでは採用の決断はできません。
軍隊用語で恐縮ですが、「戦力になるか」が決め手です。インターンを重視するのは、就業体験を通じて仕事ができそうか学生をじっくり見ることができるからです(採用活動に直結しない、ということになっていますが、そのルールは有名無実化しています)。
採用の判断材料の一つは、やはり学力です。どの会社も明記はしませんが、大学の偏差値は意識しているはずです。さらに言えば、地頭(じあたま)が重要です。単なる知識でなく、面接官の意図を把握して適確に答えられる能力です。回答に説得力があり、よく考えているな、と思わせる能力ですが、これは簡単には鍛えられません。身もふたもない言い方ですみませんが、高望みをするより、自分に合った会社を選ぶのが賢明です。
スキルを上げる
スキルは頑張れば上達します。語学力は武器になります。留学経験もいいですが、短期では語学力は証明されません。国内にいてもコツコツ勉強して、英検1級やTOEIC900点をとれれば、売りになります。英語はもちろん、中国語ができる人材も人気があります。職種によっては、簿記、プログラミングなどのITスキルも有効です。授業でデータ分析をした、趣味やサークルでホームページを作成した、動画を作った、イラストや漫画を描いた、というのもいいでしょう。
熱意を示す
ここまでは就活というより、日頃の学生生活での努力です。就活としてすべきことは、自分自身と志望する会社をよく知ることです。採用面接官に最も刺さるのは「この会社に入りたい」という熱意です。採用試験を受けているから当たり前ではないか、と思うかもしれませんが、熱意を感じる学生はそれほど多くありません。業種が違ういろんな会社を受けていて、「何をしたいのか」「本当にうちに入る気があるのか」「入ってからやっていけるのか」と不安を感じる学生は結構います。
熱意といっても、演技では見抜かれます。自分がしたいことがその会社で実現できるのか、自分の能力、知識、経験、やる気が、その会社にとって役に立つのか、よく考えてアピールできるかどうかが採用のカギを握ります。抽象的に「好奇心が旺盛です」「リーダーシップがあります」と主張するのではなく、具体的に話せるように、整理しておくことが重要です。
会社を知る
会社を知るためには、意識して視野を広げておくことが必要です。ブランド力がある有名企業は一握りで、それ以外に有望な企業はたくさんあります。BtoC(企業から消費者)の企業は見えやすいですが、BtoB(企業から企業)の企業は目立ちません。自動車会社、家電会社は知られていますが、部品、素材会社のなかには一般には知名度が低くても世界的に有力な会社はたくさんあります。専門商社、マーケティング会社など、経済を支える業界は多様です。有名企業は当然ながら人気があり、競争率は大学入試の比ではありません。大した動機もなく「有名企業だから」という理由で片っ端から受けても、徒労に終わることになります。
有力企業を発掘するには、大学や人材会社が開催する会社説明会に参加するのが常道です。高校や大学の先輩に話を聞くのもいいでしょう。メディアも活用しましょう。新聞、テレビ、ネットの経済ニュースをチェックするのもいいですし、「カンブリア宮殿」「がっちりマンデー」などのテレビの経済番組も参考になります。「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「日経ビジネス」などの週刊の経済誌はなじみがないかもしれませんが、業界の勢力図や最新情勢を分析した特集を組むことがあります。
経済小説を読む
城山三郎、高杉良、黒木亮、幸田真音、真山仁、池井戸潤などの経済小説を読むと企業や業界のイメージが湧いてきます。面接で「半沢直樹のドラマをみて銀行員になりたいと思うようになりました」と言ってもいいですが、ちょっと陳腐かもしれません。「高杉良の『小説日本興行銀行』を読んで銀行員になりたいと思うようになりました」と言った方がカッコよくて印象がいいかもしれません。大学生で高杉良や日本興行銀行(現在のみずほ銀行)を知っている人は少ないかもしれませんが、銀行の採用面接官や役員クラスはみんな知っており、インパクトがあるでしょう。
新聞を読んでいる学生も減っているので、逆に新聞を読んで、「日経新聞で御社の会長の『私の履歴書』を読んで興味を持ちました」「先日の◎◎新聞で御社の社長のインタビュー記事を読みました」といえば好感度が上がります。ネットで発信したり、本を書いている経営者も多くいます。いろいろな手段で会社を知って、さらに調べて、熱意を伝えられれば内定は近づくでしょう。
自分を成長させる機会に
冒頭に書いた通り、就活は「運」と「縁」があります。努力しても突破できる、とは限りません。「志望業種はすべて落ち、たまたま内定が出た会社だったが、結果的に自分に合った」という場合もあります。とはいえ、就活の時期になって焦って取り組むのでなく、日常生活を充実させて自分を成長させ、就職につながることを祈っています。
高35回 文人